人手不足 ーどうすればいいのか?ー『2018年04月号Way To The Top』より
現在、中小企業は、人手不足が深刻さを増しいます。なぜなのでしょうか。
確かに、景気は悪くないようです。
2017年は有効求人倍率が1.50倍と8年連続で上昇し、過去最高水準だった1973年以来44年ぶりの高水準です。完全失業率も2.8%と24年ぶりの低水準となり、完全雇用の目安といわれる3%を大きく下回っています。
2017年の日本に訪れた外国人は2,869万人です。2006年では733万人ですから約10年で4倍になっています。その消費額は4兆4千162億円(観光庁発表2018.3.20)です。個人消費の中で大きな割合を占めるまでになっています。沖縄県の入域観光客数が米ハワイの938万人を超え、939万人に達しました。
人手不足に伴う人件費の上昇が消費者物価指数を押し上げています。ドライバーが足りないと話題になった宅急便の3月の運送料は、1986年以降で最高の上昇で、外食やティッシュペーパーも人件費や物流費の上昇分を転嫁し値上がりしています。
人口の減少
ゆっくりと忍び寄る人口減少が原因だと考えています。
人口の減少で何が起きるかを確認してみましょう。人口の減少は、労働力人口の減少や貯蓄率の低下により、経済成長、労働市場、社会保障、地域社会に影響を及ぼします。経済成長は労働の投入量×労働生産性であり投入量が減れば、経済成長は減少します。労働市場は人手不足による採用コストと賃金の高騰を招き、社会保障はいびつな人口構成が社会保障の持続を困難なものとします。地域社会は、人口減少と大都市圏への集中により自治体の消滅、地方の公共交通網に採算悪化による撤退、空き家の増加による犯罪・災害の発生と様々な問題が表面化することになります。
6年後に現実となる「2025年問題」は、団塊の世代(1947年から1949年に生まれた世代)が75歳を超えて後期高齢者となり、国民の3人に一人が65歳以上、5人に一人が75歳以上という超高齢化社会が到来することです。前後の世代と比べ極端に人数が多い団塊の世代が医療や介護を受ける側に回り、社会保障財政が持続できるかどうかや、介護サービスの担い手不足の問題が懸念されています。
転換点
日本は大きな転換期です。1974年に始まった合計特殊出生率の低下が、すでに起こったことと、これから起こる超高齢化社会の原因です。
合計特殊出生率は、敗戦直後の1940年後半は4.00以上で、1965年までの25年間を単純平均すると2.51です。1974年以降は人口置換水準(2.07)を大きく下回り2016年では全国平均が1.44(東京は1.24)になっています。
ざっくりと説明すると1974年に生まれた女性が30歳で人口置換水準を下回る出産であれば2004年から人口が減り始めます。しかし平均寿命が伸びたことにより2008年までずれ込みます。2008年の人口1億2千808万人を最高に減少しはじめ、その後9年間で138万人減少し2017年の人口は1億2千670万人となりました。2030年には1億1千912万人となり、ピークの2008年から896万人減少すると推定されています。こう聞くと二十二年間で896万人しか減らない。大したことないないともいえます。
生産年齢人口
問題は、人口ではなく働く人の減少です。
生産年齢人口(15歳~64歳)は、ピークである1995年の8千726万人から7千596万人(2017年)と22年間で1千130万人減少しました。1995年といえば地下鉄サリン事件が起きた年です。この年が生産年齢人口のピークです。以降12.75%の働き手が減っているのです。
次の20年間で1千316万人減少し6千280万人となると推定されており、ピークから28.03%も減少することになります。約40年間で生産年齢人口が8,726万人から6千280万人で2千446万人減ることになります。ネットで検索してみますと2016年のオーストラリアの人口が2千400万人ですので、1995年から2037年でオーストラリアの人口が消えることになります。人よりも羊の方が多いお国ですから、あまりイメージはできませんが。
人口の減少は2008年からですが、生産年齢人口の減少は1995年からすでに始まっていたのです。
生産年齢人口の減少のトレンドは今後も変わらないので、少々の不景気がやって需給関係が緩和しても人手不足の解消する環境になるとは思えません。
国は何をしていたのだ
このような状況において国の政策は、1990年に合計特殊出生率が1.57(いわゆる1.57ショック)になり、これを受けてエンゼルプラン(1994年)、仕事と子育ての両立支援方針 待機児童ゼロ作戦等(2001年)、少子化対策基本法(2003年)、子ども・子育て支援法等子ども・子育て関連3法(2012年)、少子化社会対策大綱(2015年)、子ども・子育て支援法改正(2016年)、ニッポン1億総活躍プラン(2016年)等を実施してきました。しかし、効果があったとは思えません。
過去と現在の政府の施策は、労働力不足に対して少子化を改善する為の施策と、非労働者の中に労働者をみいだす「働き方改革」と「ワークライフバランス」の2つからなっています。つまり、少子化対策・育児支援、多様な働き方により、合計特殊出生率の上昇と非労働者であった女性の労働市場への導入による労働人口の増加、AI・IOTによるイノベーションによる生産性の向上により経済成長を持続させようとするものです。これらにより低賃金水準を維持し、アジア諸国(低賃金国)とのグローバル競争に対応しようとしているのです。
エマニュエル・トッド
フランスの歴史人口学者・家族人類学者であるエマニュエル・トッドは、ソビエト連邦の崩壊を予言した人です。その内容は、ロシア人女性が識字率上昇の後に出産率が下がるという人類の普遍的傾向に従って近代化していることを示し、通常は下がり続ける乳児死亡率が、ソビエトでは 1970年から上がり始めたことを指摘し、体制が最も弱い部分から崩れ始めたと主張し、ソビエトの崩壊を予想したのです。
その彼が言うのは、「日本におけるたった一つの問題は、人口問題です。少子化を放置し、移民も受け入れないとすれば日本社会そのものが存続できません。子供を持つこと、移民を受け入れること、移民の子供を受け入れることは無秩序をもたらしますが、そういう最低限の無秩序を日本も受け入れるべきです。」と指摘しています。
共通の課題
少子化は先進国共通の課題です。日本と国民性が似ているドイツはユーロ圏の若い失業者を吸収するとともに、トルコ、中東の難民を受け入れることで、経済成長を維持しようとしています。フランスは政策により合計特殊出生率を回復させました。
我が国は、どうするんでしょうか?
みなさんは、どうしたいですか?
今後も続く人手不足にどう対応しますか?
参考文献
厚生労働省(2017)イノベーションの促進とワーク・ライフ・バランスの実現に向けた課題
友寄英隆(2017)「人口減少社会」とは何か : 人口問題を考える12章. 学習の友社.
Todd, E., & 堀茂樹(2016)問題は英国ではない、EUなのだ : 21世紀の新・国家論. 文藝春秋
佐藤洋一.(2007) 人口減少下の経済成長戦略とワークライフバランス
Galbraith, J. K., 鈴木哲太郎 (2006) ゆたかな社会 (決定版). 岩波書店